キム・ミンハさんは、歴史の大きな流れのなかで暮らす女性から、人生への意欲を失った大学生、貿易会社で働く女性まで、異なる状況にいる人物を演じてきた俳優です。人物が何を抱えて一日を過ごしているのかに注目すると、出演作の違いをつかみやすくなります。
最初に知っておきたい三作は、若いソンジャを演じた『パチンコ』、残された時間をめぐるファンタジーロマンス『私が死ぬ一週間前』、働く女性オ・ミソンを演じた『テプン商事』です。恋愛だけでなく、仕事、家族、生き方が人物の選択に関わる作品がそろっています。
まず触れたい三作
歴史を生きるソンジャ
2022年に始まった『パチンコ』では、若い時代のソンジャ役を務めました。韓国、日本、アメリカへと舞台が広がり、複数の世代を通して家族の歩みを描くシリーズです。キム・ミンハさんとユン・ヨジョンさんが、それぞれ異なる時代のソンジャを演じています。
この作品で面白いのは、一人の人物の人生が、若い頃の選択と後の年月を通して見えてくることです。若いソンジャだけを追う場合にも、彼女の将来を知る世代や、まだその道のりを知らない人物との違いが、物語の受け止め方に関わります。
ソンジャを理解する手がかりは、恋愛の相手だけではありません。家族の存在や暮らす土地、生活を続けるための事情が重なっています。本人の望みと、時代によって限られる選択肢を分けて見ると、物語を個人の恋愛だけでは捉えられないことが分かります。
2024年にはシーズン2が公開されました。長い時間を扱うシリーズだからこそ、前のシーズンで知った人物が、新たな時代に何を引き受けるのかを追える構成です。キム・ミンハさんを知る入り口として、役が置かれた時代と家族関係を確かめながら見たい作品です。
残された一週間
『私が死ぬ一週間前』で演じたのは、チョン・ヒワンです。生きる意欲を失い、周囲と距離を置いて暮らす大学生のもとに、初恋の相手キム・ラムが死神となって現れます。ラム役を務めるのはコンミョンさんです。
ヒワンは、死まであと一週間と告げられ、ラムとともにやりたいことのリストに向き合います。設定だけを聞くと別れを中心とした物語に思えますが、何をしたいのかを考えることは、彼女がこれまで何を諦め、何を大切にしていたのかを知る入り口にもなります。
高校時代につながりのある二人なので、現在の距離感には過去が関係しています。再会した瞬間からすべてを説明してくれる人物として見るより、今のヒワンと以前のヒワンの間に何があるのかを、物語と一緒に受け止めたい作品です。
『パチンコ』が世代をまたぐ時間を扱うのに対し、こちらは限られた日数を意識させる物語です。長い年月と短い期限という時間の違いが、日常の出来事の意味を変えます。二作を比べるなら、主人公が未来をどのように思い描ける状況なのかに注目するとよいでしょう。
働くミソンの日常
2025年の『テプン商事』では、貿易会社で働くオ・ミソンを演じました。ジュノさん演じるカン・テプンが、1997年の経済危機のなかで会社を担うことになる物語です。ミソンは経理の仕事を担い、家族の暮らしにも責任を持つ人物として登場します。
この役では、会社で働く時間と、家族の一員として過ごす時間の両方が人物像につながります。仕事を失うかもしれない不安は、職場だけの問題では済みません。時代の大きな変化を、ミソンの日々の暮らしに引き寄せて考えられる点が見どころです。
ミソンとテプンの関係を見るときは、二人の気持ちだけでなく、仕事の経験や任されている役割の違いも押さえたいところです。同じ会社にいても、見えている問題や背負っている事情は一致しません。それぞれの立場を知ることで、相手を理解していく過程にも関心が向きます。
妹オ・ミホを演じるクォン・ハンソルさん、弟オ・ボムを演じるクォン・ウンソンさんとの家族関係も、ミソンを知る手がかりです。職場では頼られる人でも、家に帰れば姉という別の関係のなかにいます。一つの肩書きで捉えられない人物として見ると、群像劇の楽しさが広がります。
違うジャンルへの広がり
照明店の不思議
2024年の『照明店の客人たち』では、シナリオライターのソネを演じました。暗い路地裏にある照明店と、どこか変わった客人たちをめぐるヒューマンミステリーです。ソネは、引っ越した先で不思議な現象に遭遇する人物として登場します。
作品の仕組みや人物の正体を先に知りすぎると、ミステリーの楽しみが変わってしまいます。最初はソネが何を見聞きし、何に戸惑っているのかという、本人が知り得る範囲に沿って見るのがおすすめです。周囲の出来事を理解しようとする視点が、観る側の疑問と重なります。
制作発表会では、キム・ミンハさんは、不思議なことに出会ったときの本能的な感覚や、ソネの敏感さを大切にしたと説明しています。これは、本人が語った役への取り組みとして注目したい点です。怖さを感じる人物の内面を、どのように考えて演じたのかを知る手がかりになります。
『テプン商事』のように仕事や生活の問題が見える物語と、原因が分からない出来事に巻き込まれる物語では、登場人物が使える情報も異なります。ミソンとソネを比べるなら、「何を知っていて、何をまだ理解できていないか」という違いから役柄を見てみてください。
時代に近づく準備
『テプン商事』について語ったインタビューでは、キム・ミンハさんは1990年代の街頭インタビューを調べ、当時のソウルの話し方を参考にしたと説明しています。ただし、その特徴を強調しすぎず、人物として自然に見える程度に取り入れようとしたそうです。
また、現在の言い回しや語彙が無意識に出ないよう注意したとも話しています。時代を扱う役では、衣装や背景だけでなく、普段なら意識しない言葉も準備の対象になります。この話は、1997年に暮らすミソンを考えるための具体的な手がかりです。
同じインタビューでは、小説を原作とする作品と、絵として人物が示されるウェブトゥーン原作の作品で、役への入り方が違うことにも触れています。ソンジャ、ヒワン、ソネを並べるときは、ジャンルに加えて、人物の土台となった表現の違いにも目を向けられます。
原作を知ってからドラマを見る方も、映像で初めて人物に出会う方も、役に何を感じるかはそれぞれです。本人がどこを調べ、どこに自然さを求めたかを知ると、単に原作と同じかどうかとは別の関心で、ドラマの人物に向き合えます。
とくにミソンを見る際は、時代背景を説明する情報と、本人がその日を暮らすための行動を分けて考えると、過去の出来事が身近な人物の物語として見えてきます。
役柄を比べる楽しみ
キム・ミンハさんの出演作では、主人公の感情を恋愛だけで説明できないことが、作品選びの面白さにつながります。ソンジャには家族と生活の問題があり、ヒワンには過去と現在の隔たりがあります。ミソンには仕事と家庭の責任があり、ソネには身の回りで起きる不可解な出来事があります。
同じように誰かと向き合う場面でも、人物が置かれた状況によって、必要な行動は変わります。気持ちを伝えることが大切なときもあれば、その日の生活を成立させることが先に来るときもある。その順番に目を向けると、登場人物を単純な性格の違いだけで捉えずに済みます。
時間の描き方も、作品を比べる大切な軸です。『パチンコ』では人生の長い道のりが扱われ、『私が死ぬ一週間前』では期限が意識されます。『テプン商事』では社会の危機のなかで日々の仕事が続きます。役柄の年齢だけでなく、未来をどれほど見通せる状況かを考えると、人物の選択に近づけます。
出演歴の読み取り方
キム・ミンハさんのドラマ出演歴をたどる際には、『パチンコ』を一つの大きな入り口にすると分かりやすくなります。ただし、ソンジャ役から持った印象を、そのまま他の作品に当てはめる必要はありません。後に続く作品では、物語の規模も人物の職業も変わっています。
2024年には『パチンコ』シーズン2と『照明店の客人たち』、2025年には『私が死ぬ一週間前』と『テプン商事』が公開・放送されました。この並びだけでも、家族の歴史、ミステリー、ファンタジーロマンス、職場を含む群像劇という幅を確かめられます。
出演するジャンルが違うと、人物を知る順序も変わります。背景を時間をかけて理解する作品もあれば、謎を追うなかで人物像が見えてくる作品もあります。役について早く結論を出さず、どの情報が後から加わるのかを楽しむ見方が向いています。
次の一作を選ぶなら
家族の歴史と、一人の女性の長い人生に関心があるなら『パチンコ』から。限られた時間のなかで生き方を考える物語が好きなら、『私が死ぬ一週間前』が候補になります。二作では物語に流れる時間が大きく違うため、好みを基準に選べます。
『テプン商事』でミソンに関心を持った方には、家族を背負う人物というつながりから『パチンコ』へ進む見方もあります。反対に、異なるジャンルで役の違いを確かめたいなら、『照明店の客人たち』を選ぶと、身近な生活に不思議が入り込む物語に出会えます。
作品ごとに、人物が守りたいものと、本人だけでは変えられない事情を確かめてみてください。キム・ミンハさんの出演作をつなぐ手がかりは、同じ種類のヒロインを探すことより、それぞれの暮らしを知っていくことにあります。
