キム・ヨンオクさんは、家族の年長者や地域で暮らす高齢者を演じ、多くの韓国ドラマで若い世代の物語に関わってきた俳優です。祖母という同じ呼び方の役でも、経済的な立場や家族との距離は作品ごとに違います。その差を見ていくと、出演作を選ぶ楽しさが広がります。
まず知っておきたい三作は、海辺の町の住民ガムニを演じた『海街チャチャチャ』、主人公の祖母として登場する『コーヒープリンス1号店』、財閥の会長チェ・イルスンを演じた『ショッピング王ルイ』です。家族の内と外で、それぞれ異なる役割を持っています。
三作で見える立場の違い
海辺に暮らすガムニ
2021年の『海街チャチャチャ』は、都会から海辺の町へやってきた歯科医ユン・ヘジンと、町でさまざまな仕事を引き受けるホン・ドゥシクを中心に描くドラマです。キム・ヨンオクさんは、その町で暮らすキム・ガムニを演じました。
ガムニは、ヘジンの歯科医院に関わる人物としても登場します。序盤には、歯の具合が悪くても治療に気が進まない様子が描かれます。歯科医にとって必要だと思える行動と、そこで暮らす本人の気持ちが、最初から一致するわけではありません。
この役を通して見ると、海辺の町は主人公二人の恋の舞台であると同時に、人々の生活の場でもあることが分かります。外から来た人が、その土地に長く暮らす人の事情を知っていく。ガムニは、そうした関係に目を向けるための人物の一人です。
観る際は、主人公に何をしてくれる人なのかだけでなく、ガムニ本人にはどんな暮らしがあるのかを考えると、町の人々への関心が深まります。恋愛の進展と住民同士の関わりを一緒に楽しみたい方に向く作品です。
孫に仕事を任せる祖母
2007年の『コーヒープリンス1号店』では、コン・ユさん演じるチェ・ハンギョルの祖母を演じました。家業を継ぐことに気が進まず、自由な生活を送る孫に、カフェの経営を任せる人物です。主人公が職場に入るきっかけに関わる役どころになっています。
物語の中心には、男性と間違えられたままカフェで働くコ・ウンチャンと、ハンギョルの恋があります。ユン・ウネさん演じるウンチャンには、家族を支えるために働く事情があります。一方、ハンギョルには家業や将来を期待する祖母がいます。
二人の恋愛の背景を考えると、家族との関係の違いも見えてきます。生活のために仕事を必要とするウンチャンと、家族から仕事を任されるハンギョル。同じカフェに集まっても、そこへ来るまでの条件は異なります。祖母役に注目すると、この違いを捉えやすくなります。
祖母を、若者の恋愛に口を出す人物という見方だけで捉える必要はありません。孫に将来を考えてほしい年長者として、また仕事を任せる側として見ると、家族の希望と本人の望みが交わる場面にも関心が向きます。
ルイを育てた会長
2016年の『ショッピング王ルイ』では、チェ・イルスンを演じています。財閥の会長であり、ソ・イングクさん演じるルイの祖母です。幼い頃に両親を亡くしたルイを大切に育て、海外で不自由のない生活を送らせてきました。
物語は、ルイが記憶を失い、ナム・ジヒョンさん演じるコ・ボクシルと出会うことで動きます。本人が過去を思い出せない状態で始まるため、祖母や家の存在は、ルイがそれまでどんな暮らしをしていたのかを知る手がかりにもなります。
『コーヒープリンス1号店』と同じく、経済的な力を持つ家の祖母ですが、孫の置かれている状況は違います。ハンギョルは自分の立場を知ったうえで仕事と向き合い、ルイは記憶を失った状態で新しい生活に入ります。この出発点の差が、家族との関係の見方も変えています。
イルスンを知る際には、財閥の会長という肩書きと、孫を思う家族としての立場を分けて見ると分かりやすくなります。会社に対する権限があっても、離れた場所にいる孫のすべてを把握できるわけではありません。立場の強さと、家族を心配する気持ちは別の問題です。
ギフンの母を演じる
2021年の『イカゲーム』シーズン1では、イ・ジョンジェさん演じるソン・ギフンの母親役で出演しています。大金を求める人々が命を懸けたゲームに集まる作品ですが、ギフンには参加する前から家族との生活があります。
母親のいる場面に注目すると、ゲームの参加者という立場だけでは分からないギフンの事情に目を向けられます。何を求めて危険な誘いに近づいたのかを考えるうえで、会場の外側の暮らしも物語の一部です。
キム・ヨンオクさん自身も、放送で本作を振り返った際、イ・ジョンジェさんの母親役を務めた一方で、出演の量は多くなかったと説明しています。作品名の知名度と、その俳優が登場する時間は同じではありません。出演作を選ぶ際に、役の比重も確かめたい一例です。
『海街チャチャチャ』と同じ2021年の作品でも、物語の雰囲気は大きく変わります。海辺での日常を描く作品と、極限の競争を描く作品。それぞれで、主人公の周囲に暮らす年長者がどのように関わるかを比べられます。
また、財閥の祖母役とは、家族が置かれている経済的な条件も違います。家族を思う人物という共通点だけで役をまとめず、どのような暮らしのなかにいるのかを確かめると、キム・ヨンオクさんの出演作の幅をつかみやすくなります。
ミソンたちの祖母役
2025年の『テプン商事』では、ヨム・ブニを演じました。キム・ミンハさん演じるオ・ミソンたちの祖母にあたります。1997年の経済危機のなかで会社を守ろうとする若者たちの物語に、家庭の側から関わる人物です。
ミソンには、職場での役割に加えて、家族の暮らしを支える立場があります。祖母、妹、弟がいることで、その責任が抽象的な設定ではなく、具体的な人間関係として見えてきます。キム・ヨンオクさんの役は、ミソンの生活を知るための一つの入り口になります。
財閥の会長を演じた作品とは違い、こちらで注目したいのは、一つの家庭のなかで世代がどうつながっているかです。会社の危機を主人公の仕事だけに限定せず、その家で暮らす人々にまで目を向けると、物語の範囲が広がります。
『テプン商事』からキム・ヨンオクさんを知った方は、祖母役という共通点を頼りに別の作品を選んでみてください。若者の生活を支える年長者、孫に仕事を任せる年長者、家族から世話を受ける立場もある年長者。年齢の近い役でも、関係のあり方は一つではありません。
出演歴をたどる視点
ここで紹介した作品を年代順に並べると、2007年の『コーヒープリンス1号店』、2016年の『ショッピング王ルイ』、2021年の『海街チャチャチャ』、2025年の『テプン商事』となります。長い期間にわたって、異なる世代の俳優たちと家族や地域の関係を演じてきたことが分かります。
作品名の一覧を見るだけでは、祖母役が続いているように感じるかもしれません。しかし、家庭の経済状況、本人の職業、若者との血縁、暮らしている地域を確かめると、役柄の条件は違います。まず人物が何を決められる立場にいるのかを見てみると、比較しやすくなります。
仕事を与える立場の人と、自分の治療について判断する人では、物語のなかで扱われる選択の大きさも種類も異なります。それでも、本人の意思を持っている点では同じです。年長者を周囲のためだけに存在する役として見ないことが、キム・ヨンオクさんの出演作を楽しむ手がかりになります。
家族の外にもある物語
キム・ヨンオクさんの役柄を知る際には、家族の内側と外側を行き来して見るのがおすすめです。ハンギョルの祖母やイルスンには、孫との関係に加えて、仕事や財産に関わる立場があります。ガムニには、町の住民として他の人々とつながる日常があります。
若い主人公が知らない時代を生きてきた人物として見ることもできます。作品が説明している範囲を超えて過去を想像で決めつける必要はありませんが、今の行動だけで性格を断定せず、本人が置かれた生活条件を確かめると、関係の見え方が変わります。
とくに恋愛ドラマでは、主人公二人の気持ちに集中しがちです。そこに年長者が登場することで、仕事、家族の将来、地域での暮らしといった別の視点が加わります。その役が何の問題を持ち込んでいるのかを考えると、物語の広がりを具体的に感じられます。
次に選びたい一作
海辺の町で暮らす人々の関係を楽しみたいなら、『海街チャチャチャ』から。主人公たちの恋に加え、住民それぞれの事情に関心がある方には、ガムニという人物が入り口になります。
仕事と恋愛が交差する物語なら、『コーヒープリンス1号店』を選べます。祖母が孫にカフェを任せるという始まりを意識すると、恋愛だけでなく、ハンギョルが仕事を担う過程にも目を向けられます。
『ショッピング王ルイ』は、記憶を失った主人公の新生活と、彼の過去を知る家族を見比べられる作品です。『テプン商事』と続けて見るなら、祖母が持つ力と孫の置かれた状況がどう違うかを楽しんでみてください。キム・ヨンオクさんの出演作には、家族の年長者を一人の登場人物として知っていく面白さがあります。
『イカゲーム』を選ぶ場合は、ここで紹介した母親役が登場するシーズン1から見ると、ギフンが暮らしていた家庭とゲームへの参加をつなげて考えられます。シリーズ全体の出演歴としてひとまとめにせず、どの時期の物語に関わる役なのかを確かめると、目的に合う作品選びができます。
