舞台は朽ちかけた遊園地。灯りも少なく、錆びた乗り物が静かに佇む場所に、一人の魔術師リウル(チ・チャンウク)が姿を現す。薄暗い観覧車の前で彼が放つ一粒の光――それは小さな魔法の炎で、観客には見えないけれど、主人公ユン・アイ(チェ・ソンウン)の心を確かに震わせる。その瞬間、彼女の中で“重さ”だらけだった現実がわずかに揺らぎ、幼い頃の夢や希望がひそかに蘇る。
このシーンが持つ意味は大きい。夢を持てないこと、大人になることへの恐れ、現実の苦さ。この瞬間、ユン・アイと視聴者は“魔法”という可能性を見つける。続きを見ずにはいられない、そんな引き込み力をこのシーンは持っているのです。
裏テーマ
アンナラスマナラは、大人とは何か、夢をどうあきらめないかというテーマを扱う物語です。物語表層では魔術とファンタジーが描かれるけれど、裏には現代社会の期待や負担が色濃く横たわっています。
ドラマ名は、夢を追う少女と、夢を捨てた大人の出会いを通じて、大人になることが必ずしも堅実や安定を意味しないことを問いかけます。学業、経済、家族の責任。それらに押しつぶされて早く大人にならざるを得なかったユン・アイの苦悩は、現代を生きる若者にとって共感性が高いものです。
また、リウルというキャラクターを通じて大人でいることを選ばない自由、失った魔法(夢や好奇心)を取り戻す勇気が描かれます。文化的には、韓国社会における成功、安定という価値観、その裏で見落とされがちな感性、心のゆとり、子どもの頃の想像力の価値の再認識がされている作品です。
制作の裏側のストーリー
アンナラスマナラは原作がウェブトゥーン(作家:ハ・イルグォン)で、2010年から2011年にかけてNAVER WEBTOONで連載されました。監督はキム・ソンユン。彼は梨泰院クラスなどで知られ、雲が描いた月明りでも高評価を得た演出家です。脚本はキム・ミンジョンが担当。キャスティングも注目されました。リウル役チ・チャンウクは魔術と歌の練習を撮影3ヶ月前から重ねたそうです。ユン・アイ役のチェ・ソンウンは、これが主演のひとつの大きな作品。ファン・インヨプがクラスメート・ナ・イルドゥンを演じ、現実と理想の間で揺れる若者像を表現しています。また、制作にあたって遊園地をセットとする幻想的な舞台造形、魔法を表現する特殊効果、音楽演出に力が入れられています。音響監督パク・ソンイル、作詞家キム・イナの協力で、ミュージカルドラマという形式の中で歌、魔術、映像美の融合が試みられています。
キャラクターの心理分析
ユン・アイは、幼い頃から家庭の崩壊、父親の借金、母親の不在などを抱え、経済的にも精神的にも自分が早く大人になることを余儀なくされてきた女子高校生です。責任感が強く、自分を押し殺してでも妹を守ろうとする姿は、現実主義者としての顔を持っています。
一方リウルは、大人の仮面をかぶりながらも、心の中では子どものような好奇心や夢を失ってはいない人です。遊園地という忘れられた魔法の場所に住み、見世物の魔術を続けることで、現実との距離を保とうとする。その矛盾がキャラクターの魅力であり、不器用な強さを感じさせます。
ナ・イルドゥンは優等生でありながら、周囲の期待に縛られており、自分の望みや夢を声に出すことを恐れる若者像を体現します。その対比が、ユン・アイとリウルの間での夢、希望、現実という物語の軸を際立たせています。
視聴者の評価
視聴者の意見として、切なくて胸が締め付けられる、現実の苦しさを見過ごせないけれど夢を思い出させてくれるという声が多いです。ミュージカル形式のドラマという珍しさ、幻想的で映像的に美しい場面も好評を得ています。
一方で物語の流れにやや無理がある、エピソードごとにメリハリが弱いという批判も見られます。魔法の演出、美術、歌は高評価を受けるけれど、キャラクターの内面の変化をもう少し丁寧に描いてほしかったという意見も少なくありません。
海外の視聴者の反応
Netflixのグローバル配信後、The Sound of Magicは多くの国でNetflixのランキング上位に入る成功を収めています。FlixPatrolによれば、リリース直後には世界規模でTV番組のチャートで7位、2日後には4位に上昇。13か国で1位を獲得するなど海外での人気も高かったです。
日本でも話題になり、原作ウェブトゥーンのLINEマンガでの連載再開などメディア展開が進みました。視聴者は作品の幻想的な世界観と歌、魔法の表現に心を奪われたという声がSNS上で多数あります。
ドラマが与えた影響
まず、原作ウェブトゥーンへの注目が再燃しました。実写化によって改めて原作者ハ・イルグォンの描く世界の魅力が再評価され、読者が増えたことが明らかです。
また、ミュージカルドラマというジャンルが、歌や魔法、ファンタジーの要素を含むことで、多様なスタイルの韓国ドラマが受け入れられる土壌を拡げたと思います。
遊園地の風景、魔法を使う演出、キャラクターのファッションなど、ビジュアル面でインスタグラムやTikTokなどSNS映えするシーンが多く、若い視聴者を中心にファンアートやコスプレなども見られるようになりました。
視聴スタイルの提案
このドラマは、一気見するより1話ずつゆっくり味わいたいタイプです。魔法の歌や映像、キャラクターの心の揺れを堪能するには、夜静かな時間、一人で見るのがおすすめです。
また、友人と話し合いながら見るのも楽しいです。このシーンどう思うか、夢を持つこととは何か、自分にも魔法があるかなどのテーマで語りあえると、さらに深く感じられます。
あなたはこのドラマのどんな点に共感しましたか?ユン・アイの厳しい現実、リウルの魔術の夢、あるいはイルドゥンの期待との戦い、どれがあなたに強く響きましたか?また、似たような夢を忘れそうな人を描いた韓国ドラマでおすすめはありますか?コメントで教えてください。
データ
放送年 | 2022年 |
話数 | 全6話 |
最高視聴率 | |
制作 | JTBCスタジオ、コンテンツジウム |
監督 | キム・ソンユン |
脚本 | キム・ミンジョン |
© 2022 Netflix All Rights Reserved./© Ha Ilkwon Webtoon