『アンタッチャブル』愛する妻の死が引き起こす、巨大権力に挑む兄弟の骨太ノワール

韓国ドラマ『アンタッチャブル』の物語の始まりは、まるで静かな水面に投げ込まれた一石のような、衝撃的なシーンから幕を開けます。それは、主人公である刑事のチャン・ジュンソが、愛する妻の死という最も過酷な真実と向き合う瞬間です。彼の幸せな日常が一瞬にして崩壊するこの場面は、視聴者の心に深く突き刺さります。

ジュンソの妻は、彼の実家である巨大権力「チャン家」の闇を暴こうとしたがゆえに命を落とします。その真実を知ったジュンソが、血の繋がった家族、特に父と兄が支配する巨大な悪の組織に対し、一人立ち向かうことを決意する、その目の光こそがこのドラマを象徴する“瞬間”と言えるでしょう。愛する者の死によって目覚めさせられた正義感と、家族への複雑な情愛が交錯する彼の表情は、観る者に「この男の闘いの行方を見届けたい」という強烈な動機を与えます。この一見すると愛の喪失から始まる物語が、実は巨大な権力に挑む一人の男の孤高な戦記へと変貌していくのです。

裏テーマ

『アンタッチャブル』は、単なる兄弟の権力争いや刑事の復讐劇として片付けられない、より深層的な「韓国社会における絶対権力の構造的腐敗」という裏テーマを隠し持っています。架空の都市「ブッチョン市」を舞台にしていますが、これは現実の韓国社会が抱える、政治・経済・暴力団が一体となって築き上げた「聖域なき権力」への痛烈な批判として読み解くことができます。

チャン家が三代にわたってブッチョン市を支配し続けるという設定は、特定の血縁や派閥が既得権益を独占し、法の介入すら許さない現代社会の縮図です。ドラマは、この権力の壁にぶつかり、無力な人々の犠牲が繰り返される現実を鮮烈に描き出しています。主人公のジュンソが実の家族である権力者と対立することで、「家族愛」と「社会正義」のどちらを選ぶのかという、倫理的なジレンマを突きつけます。これは、個人的な幸せを犠牲にしてでも、社会全体の構造的な悪に立ち向かうべきか、という普遍的なメッセージを視聴者に投げかけていると言えるでしょう。

制作の裏側のストーリー

この重厚な物語を支えたのは、数々のヒット作を手がけてきた名匠たちの手腕と、俳優たちの情熱です。演出を担当したチョ・ナムグク監督は、サスペンスやノワール作品において高い評価を得ており、本作でもその手腕が存分に発揮されています。彼がこだわったのは、湿度が高く重苦しいブッチョン市の空気感と、登場人物たちの張り詰めた緊張感を視覚的に表現することでした。

また、キャスティングにおいては、主人公チャン・ジュンソを演じたチン・グと、兄のチャン・ギソを演じたキム・ソンギュンの「すれ違う兄弟」としてのケミストリーが特に重要視されました。チン・グは、過去の軍人役などで培った強さと、妻を失った哀しみを抱える男の繊細さを併せ持ち、キム・ソンギュンは、冷徹な仮面の下に孤独と弱さを隠し持つ権力者を完璧に演じ切っています。制作陣は、この二人の俳優の緊張感あふれる対峙こそがドラマの核になると確信し、撮影中も二人の心理的な距離感を細やかに調整しながらシーンを作り上げていったと言われています。彼らの息詰まる演技の応酬は、制作陣の意図通り、ドラマの大きな魅力となりました。

キャラクターの心理分析

『アンタッチャブル』のキャラクターたちは、その行動の裏に深い心理的動機を抱えています。特に、主人公のチャン・ジュンソと、兄のチャン・ギソの心理的対比は物語の核心です。

弟のジュンソは、自ら警察官となり、家族が支配する闇の世界から距離を置こうとしました。彼の行動の動機は、亡き母から受け継いだ「倫理観」と、家族が犯した罪への「贖罪意識」です。しかし、愛する妻が犠牲になったことで、彼の心理は「正義の追求」という表の動機から、「家族に対する復讐と真実の解明」という個人的な復讐心へとシフトします。彼の行動は、正義感と人間的な感情の間で激しく揺れ動く、非常に複雑なものです。

一方、兄のチャン・ギソは、幼い頃から父親の影の中で生き、家門の存続という重圧を一身に背負っています。彼の冷酷な行動は、すべて「生き残るため」「父に認められるため」という強い生存本能と承認欲求に基づいています。彼は悪人として振る舞いますが、その内心には常に孤独と、弟ジュンソへの羨望が渦巻いています。彼の行動は、家父長制的な巨大な権力構造の中で、個人の感情や人間性がどのように歪められていくかを示す、悲劇的な心理描写と言えるでしょう。

視聴者の評価

本作を視聴した人々からは、「重厚なノワール作品として一級品である」という評価が多く聞かれます。特に、ドラマ全体を覆う暗く冷たいトーンが、権力闘争の過酷さと登場人物たちの孤独を際立たせており、「見終わった後に、重く切ない余韻が残る」という感想が目立ちます。

また、チン・グとキム・ソンギュンの二人の主演俳優による演技力の高さは、多くの視聴者を唸らせました。互いに憎み合いながらも、兄弟としての情を捨てきれない複雑な関係性が、見る者の心を締め付けます。「憎しみ合いながらも、どこかで互いを想っている兄弟の姿に胸が熱くなった」「単なる勧善懲悪ではなく、悪の側にも人間的な悲哀が描かれていて、感情移入させられた」といった、単なるサスペンス以上の深い感動を覚えたという意見も少なくありません。骨太なストーリー構成と先の読めない展開が、視聴者を最終話まで引き込んだ要因として高く評価されています。

海外の視聴者の反応

『アンタッチャブル』は、韓国国内だけでなく、海外の視聴者からも高い関心を集めました。特に、アジア圏の視聴者からは、韓国の社会が抱える「財閥や政治権力の闇」というテーマが、自国の社会問題と重ね合わせやすいという点から、強い共感をもって受け止められています。

欧米の視聴者からは、「韓国版『ゴッドファーザー』のような、骨太でクラシックなノワール要素が魅力的」という評価が見受けられます。彼らは、家族間の愛憎劇と組織の権力闘争が絡み合う重層的なプロットを高く評価し、「ハリウッド映画にも劣らない重厚感とクオリティだ」という意見も寄せられています。特に、アクションシーンの迫力と、カメラワークの洗練さが、海外のサスペンスドラマファンを魅了しています。多国籍なレビューサイトでは、「予測不能な展開に毎週引き込まれた」「主要キャスト全員の演技が素晴らしく、感情移入できた」といった生のコメントが飛び交い、このドラマが持つ普遍的なテーマと高い完成度が、国境を越えて多くの人々に響いたことが証明されています。

ドラマが残した文化的影響

このドラマが残した文化的影響として、まず「ノワール作品の地位向上」が挙げられます。近年の韓国ドラマはロマンスやファンタジーが主流となる中で、『アンタッチャブル』は硬派な社会派ノワールとして成功を収め、ケーブルテレビ局の作品にもかかわらず高い話題性を提供しました。これにより、同様の重厚なテーマを扱ったドラマ制作への機運が高まりました。

また、架空の都市ブッチョン市という舞台は、韓国の地方都市が持つ光と影を象徴的に描き出しました。ドラマに登場する、歴史と闇が混在するようなロケ地は、後に「ドラマの聖地」としてファンによる探索の対象となり、観光資源としての可能性も生み出しました。さらに、主演俳優たちが劇中で見せるダークトーンで統一されたシックなファッションや、権力者の住居としての重厚なインテリアも注目を集め、一部の視聴者の間で「アンタッチャブル・スタイル」として話題になりました。これは、ドラマが単なるエンターテイメントとしてだけでなく、社会や文化にも影響を与えるコンテンツであることを示しています。

視聴スタイルの提案

『アンタッチャブル』を最大限に楽しむためには、「夜に一人でじっくりと、飲み物を片手に」という視聴スタイルを提案します。

このドラマは、各話の終わりに衝撃的な事実が判明するなど、次の展開が気になって仕方なくなる構成になっています。そのため、休日に時間を確保し、「一気見」するのが最もおすすめです。特に、夜の静かな時間帯に、部屋の照明を少し落として見始めると、ブッチョン市の暗く重い雰囲気に没入しやすくなります。主人公たちの孤独な戦い、そして彼らが抱える心の闇を深く感じ取るには、周囲の雑音がない環境が理想的です。ストーリーが複雑で登場人物も多いため、集中できる環境で細部にまで気を配りながら見ることで、脚本家が仕掛けた伏線や、俳優たちの繊細な感情表現を見逃すことなく、より深く物語を味わうことができるでしょう。

読者参加型の問いかけで締めくくる

愛する者の死の真相を追う弟と、巨大な悪の組織を守る兄。血で繋がった兄弟が運命的に対立するこの『アンタッチャブル』を見て、あなたはどちらの人生に、より強く感情移入しましたか? 巨大な力に屈せず正義を貫こうとしたジュンソ、それとも、家門の重圧に苦しみながら悪の道を選んだギソ、彼らの行動の背景にある心理について、あなたの考えをぜひ聞かせてください。また、このドラマ以外で、家族間の愛憎や権力闘争が描かれたおすすめの韓国ドラマがあれば、ぜひコメント欄で教えていただけると嬉しいです。

データ

放送年2017年
話数全16話
最高視聴率4.0%(JTBC)
制作JTBC(制作はJSピクチャーズなどと共同の可能性が高い)
監督(演出)チョ・ナムグク
脚本チェ・ジンウォン

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